このごろの音楽生活

 スーパーで買い物の途中、BGMで流れてきた聞き覚えのある旋律に思わず手が止まる。そういえばピアノトリオなんてしばらく聴いていなかったよなあと懐かしくなって、帰ってから古いHDDを引っ張り出してくる。

 還暦を迎えたころ、大人のJAZZを楽しめるようになりたく、巨人たちを紹介したCD付きマガジンを購読したり、評論家の言葉を信じて「マイルス」に挑戦したり、してみたがどうもしっくりこない。JAZZを勉強したいわけじゃなくて、ただ耳に心地よいJAZZをクールに聴きたいだけなんだ。で、一時ピアノトリオばかり漁っていたことがあった。

 そんな時に出会ったのが、エディ・ヒギンズだった。けして表舞台の華やかなピアニストではなかったヒギンズさんに、晩年の活躍の場を与えたのが日本のジャズ専門レーベル「VENUSレコード」だったという。1998年の『魅せられし心』がピアノトリオブームに乗って爆発的にブレイクしたとき、ヒギンズさんは66歳になっていた。当時の奥さんは日本人だったそうな。一番のお勧めアルバムは『Bewitched』かな。モノクロの洒落たジャケットも隠居のお気に入りだ。

 『Ella Fizgerald Sings The Rodgers & Hart Songbook』という1956年のアルバムで、エラがこのタイトル曲を歌っているのだが、なんて優しい歌声だろう。これも「今朝の1曲」にふさわしい。

 ヒギンスさんが亡くなった翌年、入れ替わるように日本デビューしたのがビージー・アデールで、彼女は御年なんと72歳だった。

 この人の癖のないピアノ・アレンジはいかにも日本人好みで、その年の最も売れたジャズ・アーティストにまでなったそうな。この人の優しくロマンチックなJAZZは1日の何処であろうと安心して聴いていられる。わが鉄板である。

 ナショジォのGeniusシリーズでドラマ「Aretha」をやるというのでのぞいてみる。

 アレサ・フランクリンって正面切って聞いたことがないんだよね。入門用にいいアルバムはないかと探していると、このドラマとの連動企画だという最新ベスト盤『The Genius of  Aretha Franklin』が見つかった。朝はしばらくアレサを聴く。「Ain't No Way」ってちょっといい曲だなあ。

 最近のわがミュージック・ライフはこんな感じ。

 

  

 

高齢社会白書

 昨日発表された内閣府の『高齢社会白書』によると、「家族以外で相談や世話をしあう親しい友人がいない」と老人の31.3%が答えていて、高齢者の孤立が深刻な課題になっているのだという。

 なんだ、ヒトリなのはオレだけじゃないんだ、と素直に思う一方、何かつっかえるものを感じたりする。 ”実はいないほうがいいくせに” と囁く自分がいるのである。

 ”友達100人できるかな"という昔ながらの幸福論に洗脳されるあまり、トモダチがいないことを寂しく思ったり不安に感じたりする気持ちは、この歳になってもある。でも、本当にそれはヘコむべきことなんだろうか。何かそう思わされてるふしはないだろうかと、このごろ感じることが多い。以前より堂々と「友達いない宣言」をする人が増えてきているせいかもしれない。友達がいなくていいなら、それでいいんじゃないか、どうして深刻ぶる必要があるんだろう。

 友達をキープするために、無理して相手のペースに合わせたり、作り笑いをまとわせたり、つい相手の言うままに動いてしまったり、でストレスを溜め込むくらいなら、とついつい「ないほう」を選択している自分がいる。年賀状をきれいさっぱり止めてしまったのも無関係ではない。陰で悪口を言いながら計算高くキープを図るより、いったい誰のためなのか、大切でもないものを大切に見せかけているより、ずっとマシじゃないかと、この歳になると思うんだよね。

 2週間ほどして新聞に載った週刊誌の広告に、「3割が友人ゼロって、何が問題?」と開き直りの見出し。そうなんだよなと共感しかけたら、次の見出しに「60過ぎたら友人もいらない」ときたから、思わず笑ってしまった。これってインチキ医学書のタイトルとおんなじ手口じゃないか。そんなに割り切れるものかね。

 

トンイとの60日

 大好きな韓国の女優ハン・ヒョジュがヒロインを演じて国民的人気を得たと聞くドラマ「トンイ」を、CSでやるというので早速チェックすると、なんと全60話もあるという。

 もとより興味も知識もない朝鮮王朝時代の歴史ドラマである。隠居がいくら暇だからといって最後まで息が続くであろうか、などというのは全くもっての杞憂であった。

 トンイはこれでもかと繰り出される南人(ナミン)どもの陰謀に翻弄され続け、毎回ラストに必ず絶体絶命の危機を迎える。そのあっと驚く健気な顔を見れば、何はさておき明日の続きを見ないわけにはいかんのである。

 それにしても人は私欲のために、ここまで策を弄して人を陥れようとするものであろうか。裏読みのできない隠居などあっという間に奈落に沈んでしまいそうだが、トンイはどんなピンチに陥ろうと、どこまでも真っ直ぐで揺るぎない。それが嬉しくて愛しくて、トンイに肩入れせざるをえない仕掛けになっている。男ってちょろいよねえ。

 「トンイ」ロスを心配していたら、今度は同じ監督による「チャングムの誓い」全54話がスタートした。トンイよりも早く、韓国歴史ドラマブームの火付け役となった不朽の名作だという。うーむ、これも見ないという選択肢はないか。おそらくこれが「沼にハマる」ということであろう。

 と書いた後、もしかして人生で一番心に刺さったドラマではないかと思うほど、チャングムに "どハマり"した。

 日曜日毎の3話ずつの放映ではとても待ちきれず、アマゾンプライムで怒涛の一気見。いやこれを見ずして何を語らん!と自分の手柄のように自慢したくなる。

 と書いた後さらにさらに、同監督による「ホ・ジュン」全64話に、これまた”どハマり”中である。

 おかげで老境の毎朝がどれほど充実していることか、誠にありがたい。

 

 

リカバリーガン

 髪を伸ばしはじめた可愛い孫に大風量のドライヤーを買ってやろうと検索している時だった。L字型のものに敏感になっていたせいで目がとまったのであろうそれは、しかし先端に大きな丸いものがついていて、どうみてもドライヤーでもないし電動ドライバーでもない。いったい何なんだろう。

 「リカバリーガン」と言われてもよくわからない。アスリートが疲れた筋肉をほぐすのに使うものだという。見た目は手のひらサイズの電動工具のような感じ。ころんと小さくて可愛い。昔から肩凝りがひどくて、仕事を離れてからも毎夜、パートナーに肩を揉んでもらわないと眠れない隠居としては、こんな便利なものがあるなら早く言ってよおとたちまちほしくなってしまった。

 GW中の今ならポイント12倍、というキャンペーンをやっていて、期限が明日までだという。いやいやこの「明日まで」とか「あと1個」とかに弱いんだよね。予想外の出費だが、あわよくばお誕生日祝にでも、と即行でポチる。

 さて土曜日に届いた小さな箱を開けると、思ったよりずっしりとした感触。本体は金属製だから安っぽさはない。手になじむ程よい大きさ。部位によって4種類のアタッチメントが付属する。さっそく充電してみると、2時間半ほどで点滅していたランプが緑色になり、準備完了。

 背面のスイッチを長押しする。強さは3段階だが最初の一押しでもけっこうな振動がくる。一番凝っている僧帽筋の上をすべらせてみると、うーむこれは気持ちいいかも。絶妙の力かげんはさすがにドクターエアだ。以前評判になったドクターエアの3Dマッサージシートを持っているのだが、どこでも手軽に使えるリカバリーガンは最強ではないか。いやこれは、毎晩クセになりそうである。

 

誤作動する脳

 陽射しの中、年配の女性がやわらかく微笑んでいる。その写真の上に「時間感覚 失われても」というタイトル。ああまた認知症の記事か、と申し訳ないが瞬時にスルーしようとする。たぶん自分に思い当たるのが嫌で、脳が避けているんだろう。

 写真の人は、朝刊の ”オピニオン&フォーラム”で紹介された「レビー小体病当事者」の樋口直美さんである。「当事者」って久しぶりに聞いた言葉だ。そういえば『当事者研究』という本を2冊買って途中で放っていたなと思い出す。

 翌日、そのインタビュー記事をちゃんと読み直して、驚愕した。

 夜、マンションの駐車場に車を停めると、右隣の助手席に女性が座っている。

「本物の人に見えるのに、驚くと一瞬で消える」

 って、ど、どういうこと? 

 それが「レビー小体型認知症」の典型的な幻視なのだという。幽霊だと思ってお祓いに行く人もいるそうな。「私は頭がおかしくなってしまったのかと恐怖を感じました」。という恐怖がこちらにもストレートに伝染する。39歳で異変が始まり、「うつ病」の薬で別人のようになり、50歳にしてようやく正しい診断名がついた。 

 これは読まなきゃ、とすぐさまアマゾンに飛んだが、著書2冊ともに金額表示がない。中古の値段もはねあがっている。『誤作動する脳』という本は去年出たばかりなのに、すでに楽天でも「ご注文できない商品」と化していて、記事を読んで驚いたのは自分だけではなかったようだ。

 日々できないことが増すばかりの隠居には、自分がただポンコツになったのだという認識しかなかったが、「脳の誤作動」などというものがあるのだと知るだけでも、自分への向き合い方が変わってくる。何としても読んでみたい。

 ダメモトで注文してみる。

 

 その本がようやく届いた。

 思うようにならない体調と向き合いながら、丁寧に紡がれたものだろう、文章が実に読みやすい。のだが、平易な文章とあまりにも重い内容とのギャップに、しばらく船酔いのような浮遊感が抜けない。

 深い珈琲の香り、香ばしい蕎麦茶、ああもうすぐパンが焼ける。

 わが隠遁生活を彩るこれらの匂いが、味が、あたりまえに知覚できることの喜び。

 その幸福感に、衝撃を受ける。何でもない日常がいかに高度な脳の活動で支えられているのかを思い知るのである。 

 いや、これはまさに”当事者”から届けられた、驚異のレポートというしかない。

 

 

 

オシリを洗うのはやめなさい

 こんなタイトルの本の広告を見たのは2月の最終日だった。いつも読書しながら優雅な洗浄タイムを(いつもちょっぴり長めに)楽しんでいる隠居はドキッとしたのである。

 オシリの洗浄・オシリ拭きの使用が逆にオシリトラブルの原因になっている、と知ってショックを隠せない。お風呂で洗剤をつけてピンポイントで念入りに洗う、のもよくないというのである。ううむこれは生活の根幹にかかわることではないか。

 しかし確かに思い当たることはある。お察しどおりオシリの調子は良ろしくない。だからよけいに洗浄タイムが長くなる。それでよし、いやそれがいいのだ、と深く思いこんでいたのだ。うーむ。

 一念発起、さっそくウォシュレットレス生活を始めることにした。

 それから2か月半たつ。

 ふと気がつくとこのごろオシリは安泰である。最初の頃は、洗浄しないとそこが妙に痒かったが、消炎剤と皮膚保護剤の入った「おしりセレブ薬用WET」を使うと心地よく痒みは消えた。いささかお高いので今は「メリーズするりんキレイ流せるタイプ」に乗り換えている。もうウォシュレットは使おうとも思わない。トイレの時間もこころなしか短くなった、ような気がする。

 「温水洗浄便座」なるものが出始めたとき、そんなものでオシリを甘やかしてどうする、と息巻いていたことを思い出した。若気のいたりである。歳をとればオシリだって老化するのだ。しかし、今回のことで気がついたのは、年寄りも甘やかしてばかりはいかんということである。いたわることと甘やかすことは違う。いたわっているつもりで自分をダメにしてしまうこともあるのだな、と痛感いたしました。

 

                  *

 さて、あれからもう10か月ほど経つが、今は「3秒ウォシュレット」生活である。3秒までなら繊細なお尻にもOKらしい。しかしそれよりも、便通でお悩みの方にはオートミールを是非ともお勧めしたい。

 ”牛乳のお粥” と聞いて顔をしかめていたのはもうはるか昔の話。今はレンジ1分で”ごはん化”したオートミールを、和洋中自在に味つけして食べるのが主流だという。

 白だしや液味噌のスープでも、麺つゆの焼きおにぎりでも、違和感はまったくない。何よりもその整腸パワーの素晴らしさに、どうして今まで妙な偏見に囚われていたんだろうと思うこと必定。初心者はまず細かく砕いたクイックオーツから、その次に、細かくする前のロールドオーツをお試しあれ。風味と食感があって、隠居はこちらのほうが好きですね。トイレの風景が一変します。

 

 

 

 

マイナンバーカード顛末

 運転免許証から健康保険証までこれからはマイナンバーカードが必須、といわんばかりの喧伝攻勢に煽られて、そうなってからバタバタするのも嫌だし、とついにわが家でも申請に及ぶことになった。写真1枚あればパソコンからできるらしい。

 ところがその写真1枚のハードルが実に高い。

 お蔵入していたデジカメを持ち出すが、当然動かない。はて充電器はどこだっけ。バッテリーを充電している間に、SDカードを探し出さねばならない。両方そろったところで、いざ晴れの日を待つ。

 晴れである。服も着替える。玄関前で撮影に及ばんとするも一人ではできないので「おい母さんや」とパートナーを呼びつけて、慣れないカメラマンをさせる。

 さてSDカードをカードリーダーで読み込もうとするのだが、最新のMacBookAirにはそもそもUSBの口がない。USBが使えるハブを、迷い倒してアマゾンで購入。届くのをじっと待つ。届くや速攻で挿してみるが、なぜか何故なのかSDカードを認識しない。これではお手上げである。

 もう一台のデジカメを持ち出し、直接、コードでパソコンとつないでみる。おっと、その前に最新の読み込みソフトをインストールしておかねばならない。こうした一つ一つが、隠居にはちかっぱ時間がかかるのである。

 最新のM1チップ搭載Macは、フォトショップエレメンツが未対応ゆえ使えない (らしい) ので、結局、お蔵入り寸前のiMacを起動することになる。ええっと写真の転送はどうすればよろしいのか。

 写真の背景を切り取りできるだけ男前に加工する、のは得意分野である。

 完成した写真を申請画面上にドラッグ&ドロップすると、ようやく申請は完了。「個人番号カード交付申請書受付センター」から「申請受付完了のお知らせ」が届いた。

 ところがこれで安心してはいけない。

 9日たってから「申請内容不備のお知らせ」というのが届いた。「不備内容」はあらかじめ用意された文らしく、具体的な説明は何もない。仕方なくもう一度写真を撮り直すことになる。やれやれ。隠居は1回シュミレーションしておくとヘンにドキドキしないで済むので、これでよかったのかもしれないと自分に言い聞かせておく。

 そうしてきっかり1と月後に、小さな青い封筒に入った「交付通知書」が届いた。

 市役所での交付は予約制なので、ネットで一番近い2日後の予約をとる。暗証番号をあらかじめ考えてきなさいという。

 予定時間の10分前に市役所に到着。番号札を手に待っていると、ほどなく呼ばれて窓口へ。説明のあと、隣のブースで暗証番号入力と顔認証。声をかけられた担当以外の職員がちらと写真を見て「OKです」と言う。あまりのアナログさに笑うべきか迷っていると「マイナポイントがありますのでまた手続きしてくださーい」と送り出される。いやそれって、申込みは終わったのではなかったか。

 帰宅してから調べてみると、期限が1と月延期されたとのことである。「申し込んだ決済サービスを使うと25%分のポイントがもらえる」そうなので、せっかくだから申請しましょう。

 手続きにわざわざ市役所まで出向かなくても、ローソンのマルチメディアコピー機でできるらしい。操作方法をしっかり予習して、混雑を避けて朝の6時に行く。

 ところがマシンが「行政サービスの受付は6:30からです」と言う。うーむ老人はその30分を駐車場でじっと待っていられないのに。

 翌日、勇んで6:30に行く。「行政サービス」が無事に起動。続いて「マイナポイント」のボタンを押す。マシンが「マイナポイントの受付は9:30からです」と言う。もう早く言ってよぉ。

 4日め。手順のマニュアルを印刷してローソンマルチメディア機に立ち向かう。若者はこんなことを苦もなくサクッとできるのであろうか。だとしたら君たちは凄い。

 と言いながら入力した「決済サービスID」をマシンが受け付けない。調べてきたから間違っているはずはない。深呼吸するのじゃ。画面をよーく見る。見慣れないアイコンに気づく。うーむ、どうやら大文字にしないと受け付けてくれないようだ。

 あるときは大文字も小文字も関係ないと言い、あるときはそれくらい区別しないでどうすると言う。そんな理不尽さは嫌というほど見てきたはずなのに、思わず唇が尖る。

 いやー、慣れないことをやってみるのはなんともいい刺激になりますな。