花子と先生の18年

 歳を追うにつれて共感力をどんどん失いつつある隠居も、時にどうしたのかと思うほどエモーショナルになってしまうことがある。フジテレビ「ザ・ノンフィクション」の『花子と先生の18年〜人生を変えた犬』を見ているときのこと、何度も声をあげて嗚咽しそうになる自分に驚き、俺ってそんなに犬好きだったっけと自問してしまった。
 杉並区にある「ハナ動物病院」には、太田先生の愛犬・花子の名前がついている。保健所からやってきた花子がいなければ、大学に「犬部」というものを作ることもなく、この病院を開くこともなかった。まさに先生の ”人生を変えた”犬なのである。
 獣医になって多くの犬を救うためには、手術の練習台になってくれる1匹を殺すことが避けられない。何とかすべての犬を救う道はないのか、と若者は悶々とする。そこへ殺されるために引き取られてきたのが、花子だったのである。さあそれから、殺処分される動物たちを救う太田先生の無償の活動が始まる。いやーいつも穏やかな先生のやりきれない憤懣にいたく共感し、思わず『犬と猫の向こう側』に『犬部』の本まで買ってしまいましたよ。
 とここまできて、そういえば小さい頃わが家にも犬がいて、彼の不慮の死に号泣したことなどとっくに忘れていたのに気がついた。だから実際の保護犬を使った映画『ベラのワンダフル・ホーム』にもしっかりやられてしまった。最新の技術を使ってここまでみごとに "はじめてのおつかい" を見せられると、これは犬好きでなくてもたまらんでしょう。