「史上最高レベルの傑作」「2005年を代表する韓国ドラマ」「新しい韓国時代劇の最先端」などという褒め言葉をそちこちで聞かされると、どうしたって見ないわけにはいくまい。でもU-NEXTなんだよなあ、とためらっていたら、「これ1作のためにU-NEXTに入る価値は十分あり」と耳元で囁くブログまで現れた。
もとより、わが愛するイム・ジヨン様である。出会ったのが「背徳の王宮」「情愛中毒」というR指定映画、いやこの大胆さは只者ではない、と心奪われ、「ザ・グローリー〜輝かしき復讐〜」のすさまじい悪役演技に舌を巻く。男優であればキム・ナムギル氏のように、妙に変なところを攻めてくる女優さんなのである。しかし最新の「素晴らしき新世界」では遂に王道に躍り出て、イム・ジヨンもここまできたかと思わせる見事なヒロインっぷりであった。
そのジヨン様の「史上最高傑作」ならばやはり見ておくべきかとU-NEXTのリトライキャンペーンに応募した。
冒頭のシーン。縛られた囚人たちの列の中にただ一人、縄なしで毅然と歩む両班らしき女性。縛ろうとする兵に「調べを受けに来ただけです。縛ってはなりませぬ。むやみに刑具を用いれば大明律419条により棒たたき60回の刑に処せられます」と言い放つ。実はこれ最終話の場面である。
「お前の名前は何だ? 清国使臣団の副使オク・ピルスンの長女テヨンか、それともキム・ナクスの奴婢クドクか」
物語の核となる問いを提示したところで回想場面が始まるのだが、あらすじ紹介はすでに多くの優れたブログがあるし、詳細な解説はnavicon=ナビコンという番組情報サイトが群を抜いている。
「韓国ドラマの魅力や感動を伝え、作品情報の充実と正確な紹介」を旨とするこのサイトには、2024年11月30日の放送直後から、1話ずつの内容紹介、「オク氏夫人伝を2倍楽しむ全話あらすじ、時代背景、豆知識」「どこよりも詳しいキャスト&キャラクター・相関図」までファンなら垂涎の情報が満載で、これ以上付け加える必要はないと思われる。
ならば一介の隠居に何が書けるだろう、とさすがにしばし黙考した。でも、しかし、こんなに「シェアしたくなる」ドラマもめったにないんだよなあ、と3話まで見たあなたならきっと賛同していただけるのではないか。
正直、1・2話はツッコミどころが多すぎて、あまりに都合よすぎませんかねえと体はだんだん斜めを向き始めていた。ところが3話めで正面向いて座り直すことになった。実にわかりやすく、どっぷりハマってしまったのである。
それにしてもなんと心地よい世界なんだろう。
その気持ちよさを生み出すためにお話は想像を超えたところに進んでいく、それが「あまりに都合よすぎ」感の正体なのだが、いや、そううまくいかないだろうけれど実は自分もそうあってほしいと願っていたんだよな、のさらに上をいく展開がこのうえなく心地よく、これこそがドラマに求めていたものだったんだよなという気になる。
1話の終わりに、"イカれた"若様ソインとクドクが芝居見物をする場面がある。
「もっと面白い本はたくさんあるのに、どうしてあんな退屈な芝居ばかりやるんだろう」と尋ねるソインに、「生きるのが苦しいからです。芝居を見ている間は苦しみを忘れられる。現実ではありえない話でも、世の人は貧しくて気の毒な人が幸せになる話を好みます。現実には訪れない幸せな日々を想像して満足感を得るんです」「それこそが芸人の持つ力では?」
自分が奇人と呼ばれてまで小説を書き、絵を描き、踊ることをやめないのは何のためなのか、よくわかっていなかったソインは、このクドクの言葉にはたと開眼して芸人チョン・スンフィとして生き始めるのだが、「オク氏夫人伝」という物語そのものが「現実には訪れない幸せな日々」を現出させる装置となっているのが、このドラマの新しさではありますまいか。
ネタばらしをすると、物語の後半、韓ドラ史上最高に心地よい場面が展開する。ところがそこにかぶさるクドクのナレーション、
「一生で一番幸せな日々を過ごしていた。これから何が起こるか知る由もなくー」
やめてくれよぉ、もう勘弁してよね、って思いませんでした?
加えて、怪演としか言いようのないお嬢様、キム・ソヘの何たるおぞましさ。いやー隠居はその夜、悪夢を見ましたよ。子供の頃によく見た”身に覚えのある何かに追いかけられる”あの夢。幸せが恐怖によってさらに輝くことをこの作者は知り尽くしてらっしゃる。まさに天才の筆かと。
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というわけで、こんなことは初めてなのだが、脚本を担当したパク・ジスク氏の他の作品ものぞいてみたくなった。すると同じU-NEXTで「アンクル〜僕の最高のおじさん〜」2021を発見。
いやいや現代劇なのに、この構図は「オク氏」と同じく両班と賎民の軋轢そのものではありませぬか。権力をふりかざす高級マダムたちの集まりも既視感満載で、宮中劇さながらの権謀術策が展開され、クドクが執拗なお嬢様の追及を恐れ続けていたように、いつ見つかるかもしれないという恐怖が主人公たちの結束と幸福感をいやがうえにも高めていく。そして「もう勘弁してよー」というナレーションも健在。最初の設定を理解してしまうとたちまち「沼」にハマってしまい、最後まで見ないわけにはいかない一気見必至のドラマでありました。
ちなみに隠居は、主人公Jキングに終始寄り添い続ける可憐なイ・シウォン様にぞっこん、新たな推しとの出会いという楽しみもいただきました。どうぞご視聴あれ。