2期めの片付け

 退職してすぐ部屋の整理をした時は、本類はずいぶん思い切って処分したものの、まだ後で使えるだろうなというあれこれはなかなか捨てることができなかった。仕事で使っていた大量のプリンタ用紙やパソコンのコード類、もちろん自分の生きてきた証である文集類や学級通信は言わずもがな。でも普段の生活でそれらを懐かしく読み返すことなどあったのか。断じて否である、のにもかかわらず。

 70になったんだからそろそろ2度めの整理をしなきゃ、とずっと気になりながら、ようやく先日から「1日10分」を実行し始めた。まずはプリンタ用紙を処分した。文集や通信や昔の詩集やスケッチブックなど、思い出にまつわるものはもう必要なしと心に決めた。後で使えるものを後で使う時間はもうないだろう。もったいないけれどこれらも処分する。

 毎朝の鼻うがいに使っているサイナスリンスのリフィルを注文。これまではわずかしか金額が違わないボトル付きセットを買っていたのだが、今回はリフィルだけにした。箱の中にいくつも転がっているボトルをこれ以上増やす必要はない、と思えたのは間違いなく片付け効果だろう。

 ところが毎朝着替えの時にかかさずやっている体重測定を忘れてしまった。朝食を終えてキッチンにもどってみると、青汁を入れ忘れている。うーむ、忘れるはずのないルーティーンを飛ばしてしまうのも片付けの影響なんだろうか。

 ザ・ノンフィクションでやっていた「今晩泊めてくださいーボクと知らない誰かのおうち」が妙に面白くて、後編を録画予約しようと探すが、なぜか見つからない。同じような趣旨で、誰か子育てを手伝ってくれませんかという「沈没家族」にも興味をそそられて、思わず本を注文してしまう。映画版もぜひ見てみたい。でも自分はいったいどこの何に惹かれているんだろう、この歳になっても自分のことはよくわからないままである。

 

 

 

生き直しをはかる

 先日目にした老活本によると、隠居たるもの毎日入浴する必要も、泡たてて顔や頭をゴシゴシ洗う必要もないのだという。毎朝の散歩でけっこう汗をかくので「入浴は週2回」などというのはさすがに無理な話だが、高価なシャンプー類はもう卒業してもいいのかもしれない、とゆうべから馬油ボディソープ1本で全身をまかなってみることにした。

 異能としか言いようのないヨシダナギさんの本を読んでから、体のどこかに小さな風穴があいたような気分が続いている。タイヤの穴から静かに空気が漏れ出るように、鬱屈がこぼれ落ちていく感じとでも言えばいいか。

 そのナギさんがNHKに出るというので楽しみに見ていたら、山口晃という面白そうな画家さんの番組を予告していた。そこで聞き知った『すゞしろ日記』という本を買ってみたところ、高価な大判の本にもかかわらず隠居には細かすぎて読めない、という事態に困惑している。

 この頃おさんぽしながら聞いているのは音楽にあらず、Voicyというやつで「靴磨きトラベラーSosho」さんの配信を楽しみに流している。この人の話も退屈な日常にこまかな断裂を起こしてくれるのだ。

 NHKでやっていた伊の医療ドラマ『DOC』を、幸いにも1話めから見ることができたのだが、高圧的で鼻持ちならない医者だった主人公がのっけから銃撃を受ける。命は助かったものの、長期の記憶を失った彼は、覚えのない過去をひきずりながら、激しく「生き直し」を迫られる。

 隠居もまた60代はずいぶんいろんなものを引きずっていたが、70代ってもしかしたら「生き直し」の時なのかもしれない、などとふと思ったのは、ナギさんやSosho君やDOC先生からの影響なのかもしれないと思う。この歳になったら、もう過去にとらわれる必要も、常識というタガの中で窮屈に生きる必要も、ありはしないのではないか。だから年賀状をやめてしまったのも正解だったんだよと納得できた、ほやほや72歳の新年でありました。

2024年

 72歳になった。

 自分へのご褒美として今日届いたのが、SHOGENさんの『今日誰のために生きる? アフリカの小さな村が教えてくれた幸せがずっと続く30の物語』。

 もっとゆとりを持って自分を大切に生きなきゃ、というメッセージ本なのだが、素材がいいだけに、もっと面白くなったはずだよなあと残念。誰でも文才に恵まれているわけではないけれど、これは既にあるメッセージを安直にコピーして本にしてしまったプロデューサーの責任だろう。

 それがあったせいか、レビューベタ褒めだった秋山楓果『ストーリーで語る』という文章修行の本を読み始めたが、だんだん退屈になってくる。

 今、ちょっと興奮しているのが、昨日たまたま出会った古賀及子という人の文章。

 ”web日記の第一人者”なのだそうだが、独特のグルーブ感をもった文章が妙に癖になる。

 2月発売予定のエッセイ集『気づいたこと気づかないままのこと』のサイン本が手に入るというので、思わずポチってしまった。

 音楽は、Laufey=レイヴェイが2023年最後で最大の収穫と思っていたら、年の瀬になって「A Night To Remember」という曲が出てきた。ここでコラボしているフィリピン生まれロンドン育ちのbeabadoobee(ビーバドゥビーと読むらしい)がなかなか良いのである。大人びたLaufeyと甘ったれたbeabadoobeeの声が姉妹のように似ていて、朝散歩でアルバムをハードプレイ中。

 自分の中で中国ドラマNo.1に輝く『星漢燦爛』が遂に終わってしまい、続いてウー・レイ主演の『愛なんてただそれだけのこと』がスタートした。現代劇だがこれはこれで面白い。しばらく見守ってみよう。

 と思っていたら、アジドラで始まった『ハピネスー守りたいものー』にハン・ヒョジュが出ていたので吃驚。5年ぶりのドラマ復帰だという。何かを失えば何かが始まる。今年もドラマの楽しみは尽きないようだ。幸せなことに。 

 

睡眠の復活

 はてなブログから「昔の記事を振り返りませんか」というメールが届いた。1年前、2年前のことを思い出させてやろうというのである。

 ああ、2年前の今頃はまだポスティングをしていたんだ、と隠居にも新たな変化があったことに気づかされる。日記はつけていてもあまり回想することはないので、こういう機会を与えてもらうのも悪くない。

 が、今朝書きたいのは「睡眠」の話である。

 今朝、下へ降りて改めて時計を見ると5:30になっていたので驚いた。ベッドでは4:30だったのに1時間はどこへいったんだろう。というボケは立派な老人である証拠だが、長い「不眠」はもう卒業できたのではないか、と初めて思えたのだった。

 退職の頃はひどい不眠状態で、1、2時間ごとに目が覚めて寝た気がしなかった。それから10年以上かけて、である。「睡眠」は隠居生活の最大のテーマであった。眠れない辛さに苦しんだ。何度か枕も替え、ホットアイマスクを装着し、ワンサイズ上のパジャマを纏ってみた。眠れないから昼間もボーッとして何もする気がしない。それを「老人だから」だと思おうとしてきた。老人だからパフォーマンスが低下して当たり前なのだと。

 でも考えてみれば、現役の頃から、寝ていないというより「仕事に追われて寝られない」ことが多かった。実は、退職して眠れずに苦しんでいた頃と睡眠自体はたいして違わなかったのではないか。そう考えれば、10年かけてようやく積もり積もった仕事の軛から開放されたのだと言えなくもない。

 今は9時までにはベッドに入る。眠くなれば眠る。そして目が覚めるのがやたら早くなる。あたりまえのことである。6時間寝ても朝の3時なんだから。それを寝られないと騒ぐほうがおかしいんじゃないか。念のために睡眠日記をつけてみたら、最近はちゃんと5−6時間は寝ていることが判明した。もちろん昼間もまだ眠いので睡眠の質はあまり良くないんだろう。でも「質」なんてことを言う前に、決定的に足りなかった量がもどってきただけでも良し、と思うべきではないか、と今朝、考えていたのであった。

 それが嬉しくて、久しぶりにまた「はてなブログ」を書いているのである。

 

レイヴェイ

 Amazon musicを初めて流したとき耳にとまった見知らぬ名前があった。それがLaifeyである。早速、探索してみると、手に入ったのは『Everything I Know About Love』2022という、どうやらこれがデビューアルバムのようだ。

 一聴、たちまちその落ち着いた深い声の虜になった。しかし年齢は24歳だという。東洋風の幼い顔だち、なのにアイスランドの出身だというから、頭が混乱している。

 なるほどお母さんが中国人ヴァイオリニストで、父親がアイスランド人。米バークリー音楽大卒。2021年にデビューするや一躍注目の存在になった新世代のジャズシンガーソングライターなんだそうな。

 このごろ耳がステイシー・ケントを卒業してしまい、愛しのルーマーもなかなか新作を出してくれないので喉が乾いていたのだろう。レイヴェイとの出会いは今年最後の音楽トピックになるかもしれない。

はじめてのスマホ

 電話をする相手がいるわけでもないのでガラケーでさえ必要ないのだが、緊急時の連絡手段がないと困るという。それに自分でもLINEはちょっと使ってみたい。写真にも興味がある。ということで、先月の旅行を機にスマホに乗り換えることにした。最安の、いわゆる「かんたんスマホ」というやつである。

 使い方をマスターしてしまうと、しばらくはLINEスタンプの自作にハマっていた。LINEスタンプメーカーというのを使うと思ったより簡単に作ることができるのである。

昔描いた絵がスタンプになるのは何とも楽しいが、やっぱり肩が凝りはじめて、何でもほどほどにしておかなきゃというのが隠居の常套になっているのは寂しいものだね。

 そうそう、スマホを手に入れた時からもう一つやってみたかったことがあった。

 今までは初代iPodシャッフルという骨董品が朝の散歩の友だったのだが、さすがに1年も同じ曲を聞き続けると飽きてしまうし、更新するためには古いiMacを起動しなければならない。耳の横にコードを垂らして歩いているのもいかにも爺さんくさいではないか。というわけで、スマートにワイヤレスイヤホンを使ってみたい、というのがひそかな願いであった。

 ワイヤレスイヤホンは今年のクリスマスプレゼントということでリクエストした。しかし例によってアマゾンに並ぶ有象無象は、どれも似たすまし顔なので選ぶに選べない。前にスマートウォッチを買ったときのように、そこそこのものがセールで安くなっているのを狙うことにする。すると15%OFFのうえに1000円クーポンまでついている掘り出し物が見つかった。

 骨伝導イヤホンを使ったとき、耳の穴を塞がない開放感が高ポイントだったので、最新の空気伝導イヤホンというのを選ぶ。片耳4グラムの小さなクリップを耳朶に挟むだけなので、耳の奥が痒くなる弊害もないだろう。

 箱を開けて即、同期完了。スマホに入れたSpotifyという無料の音楽アプリをタップすると、たちまち耳のまわりに音が溢れ出す。装着感ゼロなので音が宙に浮いているようだ。いやー今年のプレゼントは大当たりです。

 昨日からこれをつけて朝散歩をしているのだが、大好きなトゥース・シールマンスを聴きながらの散歩は、いや実に乙なものである。実はこうして文章を打っている今も、夕食後の一刻も、今やスマホとワイヤレスイヤホンが隠居の生活を席巻しているのである。

 

催眠

 毎朝3時を回ったころに起き出してくる年季の入った睡眠弱者である隠居ゆえ、『無意識さんの力でぐっすり眠れる本』といったタイトルには無条件に惹かれてしまう。でもどうせまた、よくある役に立たないハウツー本の類だろうなと思いながら、いつものように同じ著者の本をkindleで探してみると、大嶋信頼「無意識さん、催眠を教えて」というのが無料で出ていたので、さっそく試し読み。

 するとこれがなかなか面白いのである。「母親によるマイナスの暗示」の内容が、それってあるよなあ、とすとんと腹に落ちてから、ページがさくさくと進む。終わりのほうに、簡単に催眠に入れる「呼吸合わせ=チューニング」の方法が出ていたので、これは誰かに試してみたくなるじゃないか。

 コロナの後すっきりしなくて弱り気味のパートナーは、被験者として最適かもしれない。「息を吐くとき少し前傾姿勢になり、息を吸うとき元の位置にもどる」のがチューニングのお約束だが、ベッドに入ってからなのでうまく動けない。でも誰でも初回はうまくいかない(が効果はしっかりある)らしいから、頭の中で軽く揺れている自分をイメージしながら呼吸を同期していると、数分たたないうちに自分のほうが眠くなってきた。でもあわてないあわてない。そういうこともあるらしいので、遠慮なく眠りに落ちることにする。

 次に目が覚めると、電気をつけたまま彼女がすやすや寝ているのに驚く。いつもなら、眠れないとぼやきながらけっこうな時間までTVをつけているはずなのに。朝になって「今日は咳がちょっとましじゃない?」と声をかけると、「いつもより楽かも」と言うじゃないですか。催眠効果、おそるべし。

 次の夜。同じように呼吸を合わせているとやはり自分のほうが即、寝落ちしてしまう。目が冷めたのは3時半を回ったころ、いつもならもう起き出して下に降りている時間だ。 夜中一度も目覚めることなくこの時間まで通しで寝られたのは何日ぶりだろう。うーむこのぶんなら『無意識さんの力でぐっすり眠れる本』を買う前に眠れるようになっているかもしれない。

 久しぶりの一気寝でスッキリしている隠居に、「ゆうべは何度も目が覚めてしんどかった。私もぐっすり寝られるようにしてよ」と家内が言うので、3日めの夜は「見て、聞いて、感じて」の呪文とともに、より詳細なチューニングを試みる。

 トイレこそ2回立ったが、2時間ー3時間ー2時間と隠居なりにMAXは眠れている。さてパートナーのほうはいかがであろう。

 「ゆうべはよく寝られたろ」というと「うん」と答える。何らかの効果が出ているのは間違いないようだ。しかし自分のほうが先に寝てしまっているので、何かを施しているという実感はまるでない。

 4日め、2:30にトイレに立つ。いつもなら定時の3時過ぎには起きることになるのだが、4:30まで寝てしまう。10月に入ってめっきり涼しくなったせいかもしれないが、確かに睡眠時間は延びている。初めは半信半疑だったが、ここまでくるとしかたがない。結局、『無意識さんの力でぐっすり眠れる本』を注文してしまった。