わが心のどら焼き

 ゆうべ『世界ニッポン行きたい人応援団』の「どら焼き」の回を見ていてあまりに美味しそうだったので、明日、歩いて買いに行こうよという話になった。歩ける距離にどら焼きが売りの和菓子屋さんがあるのだ。念のためにHPをチェックすると10〜14日までは臨時休業だったらしい。なら今日は大丈夫だろう。

 ところがどう見てもシャッターは閉まっている。そういえば定休日のチェックはしていなかったっけ。隠居はいつもそういうところが抜けている。せっかく来たのにいやはや残念至極。ならせめて、隣のパン屋さんに寄っていこう、とまだ潰れずに営業していた小さな小さなパン屋に入る。

 真っ先にメロンパンが目に飛び込んでくる。これも「応援団」がきっかけだったろうか、いつの頃からかあちこちのメロンパンを買い回るようになり、一時はほぼ毎日メロンパンを食べていた。すると血液検査で血糖値に大いに問題あり、ということになり、そこから低糖質・減量作戦に挑むはめになった。なんと40日ぶりのメロンパンである。そのせいか、どら焼きのことが頭から飛んでしまったようだ。

 どら焼きといえば、決まって思い出すのが、近鉄奈良駅前で売られていた「三笠」である。三笠の山にちなんだその名前は関西圏でのみ使われていたようで、子どものころ、直径16センチ・重さ500グラムのジャンボ三笠を切り分けて食べるのが習いだった身には、普通のどら焼きはどこか別物感が抜けない。

 今も奈良の駅前では「三笠」が売られているが、元祖の店の横に出店した京都の和菓子処がそっくり真似てジャンボ三笠を売り出したため、あえなく閉店に追い込まれたという噂がまことしやかに語られている。真横に同業種の店を出すのもありえないが、商品までパクるなんて、と昔の味を知る奈良県人はひそかに憤っている。しかも新しい店のほうがいかにも商売上手という、まるでドラマのような話だが、果たして真相はどうなのだろう。

 ジャンボ三笠を作った「湖月」は、湖月堂や鼓月という似た名前は出てくるけれど、もはや検索にもかからない。ああもう一度、湖月のどら焼きを食べてみたいと、奈良県人なら一度は思ったのではあるまいか。