三國万里子さん

 新聞広告に見知らぬ著者の名前を見つけた。ニットデザイナーさんのエッセイ集で『編めば編むほどわたしはわたしになっていった』という、ちょっと身構えてしまうタイトルなのだが、吉本ばななの惹句が凄かった。

「繊細なようで野太い作風はニット作品と全く同じ香りと色彩。とにかく文章がうますぎる!」これは買わずにおれようか。

 ネットで著者、三國万里子さんのお顔を拝見して、即注文した。信用できる相貌、といえばよろしいか。ここまで飾らない顔はそうそうできるもんじゃないと思う。

 カバー写真の実に綺麗な本が届いた。人形が着ている手編みのセーターは三國さんの手になるものらしい。1編めから文章の巧さに舌を巻く。いやいや噂通り、とぞくぞくする。

 問題は3編めだった。三國さんが初めて出した本の話なのだが、我知らずぐしゃっと泣きそうになってしまった。いやいや泣くとこじゃないでしょ、と自分でも驚くが、いつのまにか普段は気づかない感情の世界に連れて行かれている。いやたいしたもんです。