季節のかわり目に

 布団を薄くしても、ストーブを片付けても、また寒い日がぶり返す。札幌では季節外れの雪が降っているらしい。かと思えば「今日は夏日」だとテレビのニュースが半袖姿を映し出していたりして、今年は苦手な「季節のかわり目」がだらだらと続いている。そこへ「黄砂飛来」では隠居の体が悲鳴をあげるのも当然だ。

 4月3日の日録。

「歯茎のハレと痛みがひどくて、寝ている間も気になっているせいか起きてもスッキリしない。たぶんアドレナリンが切れて疲れが出ているのだろう。孫が帰ってから1週間もたっているのにと自分でも驚くが、アドレナリン切れだと考えると納得がいく。しばらく抜けるまでは辛抱するしかない」

 その翌日、ほしかった「ファインバブル」がわが家に到着した。シャワーホースと古いヘッドをスチームクリーナーで綺麗にして、さっそく新しいヘッドを試してみる。ウルトラファインバブルとマイクロバブルがお肌を優しく癒やしてくれるらしい。隠居の気分をアゲるにはこういう小道具が常に必要なんだよね。

 新聞のマンガ時評で中条省平氏が「類まれな傑作」と絶賛していた、齋藤なずな『ぼっち死の館』を読んでみる。行間スカスカの荒川祐二『半ケツとゴミ拾い』は思ったよりおもしろかった。99歳になる母に99歳神沢利子さんの句集『冬銀河』を注文する。井口淳子さんの『送別の餃子』が前からほしくて楽天ポイントがたまったら買おうと思っていたのに、週末、アンダーアーマーの靴に使ってしまった。うーむ、今月はちょっと使い過ぎかもしれない。という、これも不調のなせるわざである。

 どうして今まで名前すら聞いたことがなかったのかは謎だが、Cecile Mclorin Salvantは ”現代ジャズ・ヴォーカリストの最高峰” なんだとか。グラミーのベストジャズ・ヴォーカル賞を3度も受賞している。全アルバムを巡っている最中だが、どうもいま一つピンとこないんだよねえ。というこういうモヤモヤも、実に季節のかわり目らしい。

 以上、近況報告。

ブログのはじまり

 2020年5月の日録から

 もともと”毎日が日曜日”なので、自粛前と後でそう生活に変化があるわけではない。なのに日々の鬱々ムードは隠居の心もぐるぐると巻き戻して、普段は聞かない大昔のフォークなんぞを引っ張り出させたりする。早川義夫の「ラブ・ゼネレーション」を今さらながら買ってしまったのも、西岡たかしや遠藤賢司や、はては禁断の「友川かずき」にまで手を出してしまったのもやっぱりそのせいなのだ。で、少し気分を変えるために、この「投稿」を始めることにした。友達がいないので無観客だけれど、書いている間は他のことをすっかり忘れることができる、のが何とも心地よい。
 ところが「投稿を編集」ボタンがあることに気がついたのがいけなかった。仕事がら、ひとつの単語から句読点まで、いつまでも気になってしかたがない。初稿には初稿の良さというものがあるのだとわかってはいるが、一度手を入れると、そのうちに痒くないところまで搔き始めるようになる。まさに無限ループ。うーんそれもまた楽しい、のかもしれないのだが。
 自分でも忘れていたがこれがブログのはじまり、最初はFacebookだったが、ご多分に漏れずきっかけはコロナなのだった。あれから3年がたつ。
 長い間放置していたそのFacebookから「いいねがついた」という連絡が届いて驚いた。誰かとつながる目的なんぞではなかったくせに、はじめての「いいね」が何とも嬉しい。しかも「記事を読んでお友達になりたい」というではないか。
 どんな粋人かとのぞいてみて、再び吃驚。台北大学出身だというその女性は驚くほどの美人さんで、しかも「独身」だという。ふふん、だからといって隠居がこのように狼狽する必要はないわけだが、写真が並んでいるだけの中身のないFacebookはいかにも急ごしらえで、いやーどう見てもこれはトラップでしょ、と疑うことを知らない隠居でもさすがに脳内警報が鳴り響く。こんなものにひっかかってちゃいかんよなあ。
 しかし世の中には美しい人がいるもので、今も妙などきどきがおさまらないのだから男ってだめだよねえ。
 

ドラマの日々

 めっぽう面白かったイチ推しの韓国ドラマ『カイロス 運命を変える1分』が終わってしまい、毎週楽しみにしていた上質のNHKドラマ『DOC あすへのカルテ』も最終回を迎えた。『DOC』は伊本国でも好評だったらしく、すでにシーズン2の放送が終わり、シーズン3の制作も始まっているとか。日本では9月に続きがあるんだそうだ。

 今の楽しみは、『ストーブリーグ』以来ファンになって見たくてうずうずしていたナムグン・ミンの最新ドラマ『黒い太陽 コードネーム・アムネシア』が始まるのと、イ・ビョンフン監督『馬医』全50話がスタートすること。イ・ビョンフンは『トンイ』全60話に始まり、『宮廷女官チャングムの誓い』『ホジュン 宮廷医官への道』『オクニョ 運命の女』とハマり続けて、長編5作目の視聴になる。中でも『ホジュン』は、2013年にリメイクされた『ホジュン〜伝説の心医』を今も見続けるほど鷲掴みにされているのだ。

 もうひとつドラマといえば、『コウラン伝 始皇帝の母』が格別の楽しみを与えてくれていることも告白しなければならない。2018年に大ヒットした『エイラク 紫禁城に燃ゆる逆襲の王妃』のスタッフとキャストが大集結したという中国大長編歴史ドラマ、全62話。さすがにエイラクのキレのある面白さには及ばないが、同じ主人公コンビに、見覚えのある顔がまったく違う役柄で絡むゆえの妙な楽しみ方ができる。だってあの明玉ちゃんが、コウランを助ける明敏な女医として出てくるんですからこれはたまらんですねえ。

中国映画「こんにちは、私のお母さん」

 どうにも魅力的とは言い難い中年の主人公、タイムスリップはお手の物の韓国映画に比べて切れ味の悪い筋立て、なんとも笑えないギャグ、と三拍子そろっているのに、なぜか見続けてしまうのは、ひとえに若き日の母を演じたチャン・シャオフェイの溌剌とした魅力ゆえだろうが、この映画、最後の最後に大化けする。派手に泣かされること必至。そしてエンドロールで、ああそうだったんだ、と目を見開き、原題の意味を知らされるというかつてない映画体験をさせてくれる。邦題の「こんにちは、私のお母さん」は訳としてけして間違ってはいないのだけれど。

 全世界で900億円という記録をたたきだし「世界最高の興行収入を得た女性監督」と讃えられるのも当然と言えようか。そしてこの女性監督が誰なのか、であなたにもほーっと長い溜息をついてほしいので、僕としてはないしょにするしかない。

朝の散歩2

 歩数計がわりに買ったスマートウォッチのGOボタンを押すと、ウォーキングの計測が始まる。いろいろなコースを試してみて、中学校の近くにある公園から川沿いにくだってバスターミナルを抜け、いつもパトカーの停まっている遊歩道に出るルートでほぼ4000歩、雨の日以外は毎日、これを続けている。もちろん、軍手にごみ袋、新調した金ばさみ、耳には懐かしの初代ipod shaffle。ユーミンの50周年記念ベストアルバム50曲と、桑田佳祐のベスト「いつも何処かで」35曲をシャッフルしながら歩くのである。

 しかし「クリーンさんぽ」と名付けてはいるが、至らぬ隠居の心はけしてクリーンではない。なんでこんなところにかようにゴミをぶちまけるのか、と小さな胸に怒りがうずまいている。ゴミ置き場のネットの上に決まって飲みかけのコーヒーをわざとらしく置いていく不届き者の尻を思いきり蹴ってやりたくなる。早朝から大声で笑いながら散歩する老人集団には、このゴミが目に入らぬか、と印籠でも突きつけたくなる。自分も老人なんだけど。

 自分ひとりが毎日ゴミ拾いをしたところで何が変わるものでもない。でも気になっておちおちウォーキングもできない性分だからしかたがないんだよね。毎朝、45号のゴミ袋がほぼ一杯になるぶん、公園は、バスターミナルは、遊歩道は、きれいになっているのだ、と思えば少しは心の慰めになっているような気がする、たぶん。そして今日も自分の足で元気に歩けたという充足感があることは、間違いがない。

Ivan Lins

 Dori Caymmiのアルバムにあった「Lembre de Mim」という曲は、Remember Me=私を忘れないで、という意味だそうだが、なんて美しいメロディなんだろう。調べてみると、これはブラジルの至宝といわれるイヴァン・リンスさんの曲の中でも最もカバーの多い有名曲なんだとか。リンス氏のお名前は知っているが、これほどの凄腕とは思っていなかったので、早速アルバムを漁ってみる。

 すると、「Night Mood:The Music Of Ivan Lins」1986というタイトルが見つかったのでまずは再生。いやいや隠居お気に入りのMark Murphyのアルバムなんですが、これが1曲めからなかなかいけるじゃないですか。イヴァン・リンスの名曲をマーク・マーフィがジャージィに歌い上げるという至福のアルバム、ただいまパワープレイ中。

 探索の途中でNancy Wilsonの「Best of the Capitol Years」1992という未知のアルバムを見つける。これは確か持っておりませんでした。やっぱりナンシー・ウィルソンは最強だなあと感じいっていると、さらにナンシーさんがフューチャーされている「Echoes of An Era 2」というアルバムを発見す。

 「2」というなら「1」もあるのだろうと深堀りしてみると、ありましたありました。こちらはチャカ・カーンをディーバに据えた「Echoes of An Era あの頃のジャズ」というタイトルで、1982年といえばファンクバンド「ルーファス」が解散してチャカさんがソロに専念しようという年。「グリフィス・パーク・コレクション」を作った夢のスーパークィンテット達がチャカを歌姫に迎えて作ったスタンダード・アルバム、ということでかなり話題になったのだとか。

 チャカさんのジャズ・スタンダード・アルバムといえば「Classikhan」だよねえ、ということでこれも久しぶりに聞いてみたくなりました。

 

Dori Caymmi

 Gregg Karukasの最新作「Serenata」2021は、初めての全曲ソロピアノ・アルバムだそうだが、これまでの小洒落たスムース・ジャズ・アルバムとはずいぶん趣が違って、静謐で美しい曲が並んでいる。ミルトン・ナシメントやドリ・カイミといったブラジルのアーティスト達の曲を集めたものだとか。このCaymmiってあの「Tom & Caymmi」のカイミさんだろうか。Tomことアントニオ・カルロス・ジョビンさんと共にボサノヴァを創り上げたレジェンドである。

 ところがいくつかのアルバムをピックアップしているとどうもおかしい。Doriの本名がDorival Caymmiなのかと思っていたら、「息子のDori」なんて表記が出てきたじゃないですか。

 つまり、ジョビンさんと「Tom & Caymmi」を作ったのはボサノヴァ創世期から活躍する父ドリヴァル氏、「Summerhouse」でもKarukas氏と共演しているのは跡継ぎ息子のドリ、ということらしい。

 早速、Dori Cymmi「Contenponeos」2004を聞いてみると、いやこれが不思議な浮遊感があって実に良いんですな。隠居の好みど真ん中のこんな大物が隠れていたとは嬉しい限り。あくなき渉猟のたまものでしょう。とりあえず世評高い「Kicking Cans」1993あたりからパワープレイしてみることにいたしましょう。