ルーティーン

 朝刊連載の益田ミリ「オトナになった女子たちへ」が10周年を迎えたそうな。「さまざまなできごとによって人の心は変化していく。わたしもまた次の10年で変わっていくのかもしれません」とあって、そういえば退職してもう10年になるんだ、としみじみ思う。この10年で自分はどう変わったろう、などと考えてみるのもいいかもしれない。

 仕事から解放されて生まれたマイ・ルーティーンがたくさんある。せっかく縛りが解けたのになぜ?と若い時なら思うだろうが、その規則的な繰り返しが心地よい年齢になったのだ。

 朝起きたらすぐに、音楽を流して舌みがきと鼻うがいをする。鼻アレルギーは持病といっていいものだが、サイナスリンスの鼻うがい効果は抜群である。プーアール茶で喉うがいをするのはつい最近始めた。痰をきる効果があるらしい。そもそも自分が痰を切らねばならない爺さんになるなど10年前は想像すらしていなかった。老人には老人にしかわからない労苦があることは老人にならないとわかんないんだよね。

 朝珈琲の代わりにはお白湯を飲む。これもアーユルヴェーダ流である。

 朝食はオートミール+青汁+玄米フレーク+米油で、今朝、初めて目標の72キロを切った。血糖値が高いと言われて始めた減量作戦だが、10日めで第一目標達成はなかなか気分がアガる。次は、10年前の減量でもかなわなかった「70キロ突破」である。

 平日のお昼はほぼスープジャー。野菜たっぷりの、生姜を効かせた白だしスープを奥さんのと2人分作る。

 時間があればフローリング・ワイパーを持って家の中を動く。先日からこれに長いコロコロが加わった。できるだけ外も歩くよう心がける。朝の光を浴びるために家の周りをぐるっと歩くこともあるし、週に2回のポスティングで町内を1周すると軽く6000歩を超えるので、これも良い運動習慣になっている。

 湯船につかりながら始めたのが、ヨガの片鼻呼吸(ナディーショダナと言うと何となくカッコいい)。自律神経を回復させてくれるという。1日を振り返って心をリセットするための「スリー・グッド・シングス」も、まだ時々忘れてしまうが、定着させたいと思っている。今日できたこと・楽しかったこと・感謝することを3つ、紙に書く。効果は実証されているらしいが、3つ以上では効かないというからおもしろい。

 眠くなったら寝られる、というのが退職後の最大の変化だろうか。どんなに眠くても起きてノルマを果たさねばならないのが仕事というものである。その結果、お決まりの「不眠症」になった。眠れないなら寝ないでいいさと開き直るしかない病気だが、そうすると昼間、眠くてたまらない。ものが考えられなくなる。まともに仕事ができなくなった。仕事を離れてからも、睡眠をとりもどすのに長い時間がかかった。

 最近、枕をゲルに変えてから何時間も続けて眠れるようになり、時には朝まで起きないこともある。これが何とありがたいことか。

 こうして振り返ってみるとこの10年は、仕事でボロボロになってしまった自分をゆっくり取り戻す時間だったのかな、という気がする。そのために体を整え、心を整え、試行錯誤しながら、行き着いたのが今のルーティーンたちなんだろう。

 仕事をしているときにはどうしても必要だった重い鎧をきれいさっぱり脱ぎ捨ててみると、幼いころの柔らかく引っ込み思案な自分がいる。そのまんまでいいじゃないか、と今なら思える。強がることを捨てて、弱いままで生きていく勁さを得たことがせめてもの年の功なのかと思うのだ。