催眠

 毎朝3時を回ったころに起き出してくる年季の入った睡眠弱者である隠居ゆえ、『無意識さんの力でぐっすり眠れる本』といったタイトルには無条件に惹かれてしまう。でもどうせまた、よくある役に立たないハウツー本の類だろうなと思いながら、いつものように同じ著者の本をkindleで探してみると、大嶋信頼「無意識さん、催眠を教えて」というのが無料で出ていたので、さっそく試し読み。

 するとこれがなかなか面白いのである。「母親によるマイナスの暗示」の内容が、それってあるよなあ、とすとんと腹に落ちてから、ページがさくさくと進む。終わりのほうに、簡単に催眠に入れる「呼吸合わせ=チューニング」の方法が出ていたので、これは誰かに試してみたくなるじゃないか。

 コロナの後すっきりしなくて弱り気味のパートナーは、被験者として最適かもしれない。「息を吐くとき少し前傾姿勢になり、息を吸うとき元の位置にもどる」のがチューニングのお約束だが、ベッドに入ってからなのでうまく動けない。でも誰でも初回はうまくいかない(が効果はしっかりある)らしいから、頭の中で軽く揺れている自分をイメージしながら呼吸を同期していると、数分たたないうちに自分のほうが眠くなってきた。でもあわてないあわてない。そういうこともあるらしいので、遠慮なく眠りに落ちることにする。

 次に目が覚めると、電気をつけたまま彼女がすやすや寝ているのに驚く。いつもなら、眠れないとぼやきながらけっこうな時間までTVをつけているはずなのに。朝になって「今日は咳がちょっとましじゃない?」と声をかけると、「いつもより楽かも」と言うじゃないですか。催眠効果、おそるべし。

 次の夜。同じように呼吸を合わせているとやはり自分のほうが即、寝落ちしてしまう。目が冷めたのは3時半を回ったころ、いつもならもう起き出して下に降りている時間だ。 夜中一度も目覚めることなくこの時間まで通しで寝られたのは何日ぶりだろう。うーむこのぶんなら『無意識さんの力でぐっすり眠れる本』を買う前に眠れるようになっているかもしれない。

 久しぶりの一気寝でスッキリしている隠居に、「ゆうべは何度も目が覚めてしんどかった。私もぐっすり寝られるようにしてよ」と家内が言うので、3日めの夜は「見て、聞いて、感じて」の呪文とともに、より詳細なチューニングを試みる。

 トイレこそ2回立ったが、2時間ー3時間ー2時間と隠居なりにMAXは眠れている。さてパートナーのほうはいかがであろう。

 「ゆうべはよく寝られたろ」というと「うん」と答える。何らかの効果が出ているのは間違いないようだ。しかし自分のほうが先に寝てしまっているので、何かを施しているという実感はまるでない。

 4日め、2:30にトイレに立つ。いつもなら定時の3時過ぎには起きることになるのだが、4:30まで寝てしまう。10月に入ってめっきり涼しくなったせいかもしれないが、確かに睡眠時間は延びている。初めは半信半疑だったが、ここまでくるとしかたがない。結局、『無意識さんの力でぐっすり眠れる本』を注文してしまった。